魚醤物語
- 2019.09.16魚醤日記
- 2018.11.20八木沢川鮭遡上
- 2018.11.04三陸宮古沖の秋刀魚の行方とカレー
- 2018.11.01魚醬日記
ご存じのようにサケは母川回帰といって、生まれた川に4年後に戻ってきます。三陸・宮古で生まれたサケは、北海道、オホーツク、ベーリング海を回って4年、成長して生まれた川に戻ってきます。そのサケ属の中で最も分布が広く、最も漁獲量が多い種類がシロザケ(秋鮭)です。塩ザケ、新巻鮭(塩引)、チャンチャン焼き、とば、フレークなどで昔から親しまれています。このシロザケのことを三陸・宮古では南部鼻曲(はなまがり)鮭といいます。宮古市の津軽石川に遡上してくるサケは、川の急流と川石などに揉まれ、徐々に鼻が曲がってくるからでしょう。
サケのアラを漬け込んで発酵・熟成させます。このシロザケの粗(アラ)を使って魚醤を作っています。粗(アラ)とは、人が食べない部分で、内臓とか頭の部分です。従来、中骨、表皮、頭部などは残渣として廃棄されてきました。しかし近年、中骨は缶詰にされカルシウムの供給源として好まれ、また、表皮はコラーゲン、頭部の軟骨はコンドロイチン、白子はDNA核酸、老化防止など健康食品などへの利用があります。
魚醤を作るには、サケの粗(アラ)に食塩を混ぜて発酵熟成させます。発酵を早めるために麹や酵素剤を入れて作る人が多いのですが、私は、鮭と食塩のみで3年かけて醸造しています。三陸で鮭魚醤を作っているのは私一人だけです。しかし、となりの秋田県には「しょっつる」というハタハタを原料とする有名な魚醤があり、また北海道では魚醤を作っている会社が20 数社あります。魚種はさまざまで鮭、タラ、サンマ、ホッケ、海老、タコ、などなど、魚醤ブームと言ってもよいぐらい盛んです。各地でさまざまな海の幸を活用した魚醤が作られ、原料ごとに異なる風味が楽しめる。一度に使う量はほんの数滴、それで料理の印象がガラリと変わるのだから、いつもの我が家の味がどう変身するか試してみるのも一興だと思います。
この魚醤を開発して商品化するまで5 年の歳月を費やしました。東日本大震災では、津波が目前20 メートルというところまで押し寄せ、魚醤の仕込み醪の樽が危うく流されてしまうところでした。私自身、勤めていた会社が被災するなどしましたが、なんとか震災から2 年後に魚醤が完成し発売することができました。 無添加にこだわり、三陸・宮古の鮭と塩だけで発酵熟成3 年かけて作った鮭魚醤、ぜひ一度お試しください。